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日々の独り言。
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バレンタインは、押さえておいた方が良いかなぁと。
今週の更新はこちらです。以下弓士バレンタインネタ。
…ていうか決戦は?

バレンタイン。
未だなんとかスーパー店員な僕です。
極小スーパーではありますが、極小ながらもバレンタインコーナーがあります。そこに、普段は店ではあまり見られない中高生女子が集まってひそひそ何かしてるのが、微笑ましくて仕方がありません。製菓コーナーとかで板チョコたくさん手に取ってるときゅんっとする。
ん? 作るのかい? 手作りかい? 微笑ーましーい。
…このうち一体どれだけが友チョコなのかと、考えると若干萎えますが。友チョコ交換会は男子からしたらさぞつまらないんだろうなぁと思いますね。手作るなら本命を手作ってやれYO。

では、以下バレンタイン弓士です。




帰り際。手を出すようにと言われたので差し出したら手の平にぽんと置かれた赤いラッピングの小箱。

「何だ?」

「明日は何の日でしょう?」

今日の日付は4月13日。夕飯も食べ終え片付けも済み夜も更け、今日は家に帰るという遠坂とセイバーを玄関までと見送りの最中である。

「…明日が何の日って、バレンタイン? てことは、チョコか?」

「正解。こないだ、デパートにチョコを買いに行ったらね『友チョコ・世話チョコはお早めに』って書いてあったのよ」

あぁ、それで一日早くに手渡してくれたのか。と感心していたら隣のセイバーも「どうぞ」と可愛らしいピンクの小袋を差し出した。
両手にチョコ。…嬉しくないと言えば嘘になる。むしろ嬉しい。

「ありがとう。じゃ、ホワイトデーには何か御返しだな」

「えぇ、三倍返しだからね」

「あんまり甘いモノ食べると良くないって言ってなかったか?」

「む。士郎ってば性格悪くなったんじゃない?」

そのやりとりにセイバーがくすくすと笑う。
じゃ、と遠坂が一言区切って玄関を開けた。二月の夜の冷えた空気が流れ込み、部屋着のままでは少し肌寒い。

「明日は頑張んなさい」

「え?」

ひらと手を振って二人は外へ出て行った。
一人玄関で首を捻る。明日、というのは先程の会話からしてバレンタインの事だろう。その当日に、男である俺が何を頑張ると―

「………うわ」

うわぁ。大変だ。




ごとごとと、片付けたばかりの台所に所狭しとボールを並べる。
冷蔵庫や棚を開けて目当ての品々を一気に並べて、それらを計量器に乗せては下ろしていく。
小麦粉、卵、バター、生クリーム。チョコレート。
こちらの喧噪に居間でアイロンがけをしていたアーチャーが台所に顔を出す。

「何の騒ぎだ?」

「明日の準備。藤ねぇがチョコが食べたいーっていうから、練習も兼ねて」

「こんな時間からか」

「さっき遠坂にチョコ貰って急に思い出したんだよ」

時計を見ると短針も10を過ぎた。急がなくては、間に合わない。
不審気にこちらを見ていたアーチャーがそうか、と一応納得した風に頷いた。

「手伝うか?」

「いや、一人でやる。あ、でも味見だけ、手伝え」

「毒味だな」

「ホント失礼だな。ちゃんと食えるもん作るっつーの」

じとりと睨んでアーチャーを台所から追い払う。やれやれと肩をすくめてアーチャーはアイロンがけに戻った。
…危ないところだった。こんなもの、アイツの為に作ってるなんて知られたら馬鹿にされるに決まってる。
バレンタインに、男が男にチョコを送るなんて。

馬鹿だとは、思う。
そもそもバレンタインってのは女の子が好きな相手にチョコを送るって言うのが定例だ。男からなんて去年からの風潮でしかもまともに定着もしやしない。
それでも、好きな相手に何かしたいって思うのは、女の子だけじゃないんだから。
いつも買い物に行くスーパーで展開されたバレンタインコーナー。そこだけピンク色の空気が漂い、いつもはこういった場所では見かけることの少ない少女達が製菓材料の前で密やかなさざめきを立てている。それを遠巻きに眺めながら、定番のお菓子コーナーで目に付いた板チョコを手に取っていた。
本当は、それなりにちゃんとしたバレンタインのチョコなんてものを送ってみたいけど、…さすがにあっちに踏み込む度胸は残念ながら俺には無い。無いので、家にあるモノで何とかしてみようと思った。

板チョコ一枚、二つ分。
おやつに買ったと言うにはちょうど良く、練習用と言い張るにも適度な分量。
店頭に掛けられていたガトーショコラのレシピを一枚拝借し、それとにらめっこ。
料理は得意とはいえ、製菓は不慣れ。上手く行くことをひらすらに祈りつつ、バレンタインに適当な理由を付けて何気なく渡すつもりだった。

が、遠坂が言っていたことを要約すれば、友達用、お世話になった人用のチョコはどうやら14日までに渡すものらしい。つまり「14日は本命用」ということだ。
そんな話があったとは知らず、俺は見事に明日の14日にアーチャーにチョコを渡すつもりだった。
違う、断じて違う。本命とか、そんなんじゃ全然無い。だから明日渡すのは不味い。多分ものすごくマズイ。

そして俺は今日という13日に渡す為、今まさに大慌てで予定を前倒ししてチョコレートを溶かしているのだった。ただでさえ不慣れな製菓。ぎこちなくなる手際はさらに時間を掛けさせ、時計の針を何度も見る羽目になった。
湯せんのお湯に突っ込んだ温度計をじっと見て、温度を確認する。チョコとバターの溶ける甘く濃い香りは深夜を目前にした時間帯では若干重い気もするがそこは黙殺しておく。
ハンドミキサーが無いことに気付き、仕方がないので自力でメレンゲを泡立てる。結構な運動になった。
卵黄と砂糖をよく掻き混ぜてさらに二の腕がだるくなる。
何度も机の上に置いたレシピを確認し、泡立て器からゴムべらに道具を変えてさらに混ぜる。お菓子職人を尊敬する。
ようやく出来上がった生地を型に流し込み、予熱しておいたオーブンに突っ込んで、ようやく一息吐いた。
時計を見ると短針は11を過ぎている。焼き上がりまで40分。何とか今日中に間に合いますようにと祈りながら、流しの中のボールの山を片付けに掛かった。


「アーチャーっ!」

襖をすぱーんと勢いよく開け放ち、中にいたアーチャーに焼き上がったばかりのガトーショコラを差し出した。

「…味見」

「何だ貴様は息を切らせて」

「何でもない。何でもないからさっさと食え」

ラッピングも何もない。というか皿すらない。型に入れたままの状態でぽんとアーチャーの手に置いた。
何とか、間に合った、ハズ。かくしてコレが本命チョコという疑いからは外れるのであった。
じ、と手の中のガトーショコラを見てアーチャーがふむと呟く。

「人に渡すというのなら、せめて型から外したらどうだ」

「…いや、うん、そうだな」

「見た目が地味なのだから、粉糖を振るなり工夫しろ」

「時間が無かったんだよ…」

「何の」

「何でもない」

ふいと視線を外せば、追求するような視線が刺さる。それを無視すれば次に味の批評に掛かるつもりか、かふ、とケーキにかじりついた。

「45点」

酷評にも程がある。
へこんだ。

「メレンゲはきちんと泡立てたのか? 焼きたてならまだしも、冷めると萎む。それと型から外し辛い。バターだけではなくあらかじめ粉を降っておけ」

「…ワカリマシタ」

指摘が身に刺さる。初めて作った菓子とはいえ、結果は散々なモノだった。これは、本当に練習をしておけば良かった。
溜息を吐きそうなのをぐっと堪えると、文句を言いながらもガトーショコラを食べきったアーチャーがふと笑う。

「とはいえ、日付が変わってすぐにチョコを持ってきたという態度は褒めてやろう」

「……ぇ?」

何か今、あまり見たくない機嫌の良いアーチャーと、あまり聞きたくない言葉を聞いた気がする。
へこんで俯いた頭を上げる。アーチャーの部屋の机の上、デジタル時計の表示は見事に00:02を示していた。
す、過ぎてたーっ!! 今日は14日です!!

「遅くまで悪かったなじゃあ夜も遅いしおやすみアーチャー」

「まぁ待て」

立ち上がろうとしたら足首を掴み上げられそのまま畳に倒れ込んだ。逃げを打つ前に引き摺り下ろされ、アーチャーが真上にのし掛かってくる。

「ちが、違う! 断じて違う! 俺がソレ渡したときはまだ13日だった!」

「私が食べたのは14日だ。そうかそうか、そんなに私が好きか」

「っだ! ばか、馬鹿馬鹿バカ!! そんなんじゃないっ、義理だ! いつも世話になってる礼だバカ!」

何とかアーチャーの下から逃れようと身を捩るが、脚をまたがれ身動きを封じられる。
服の裾に差し込まれる手にひ、と喉が反りそこに口付けが落とされた。

「…甘い匂いがするな」

「そ、れはさっきまでチョコいじってたからだっ! 離せーっ!」

「そうか? 本当に甘いのだろう?」

そして今度こそ、口付けは唇に触れる。叫んでいた唇は容易に舌の侵入を許し、先程のチョコの残滓か、それは酷く甘かった。

「そら、甘い」

「っ、お、前だろ、甘いの」

あぁそういえばさっき俺も味見したから甘いかもとか考えている間にも手の平が胸を撫でてくるから心拍数が上がって仕方がない。
一気に色が変わっていく空気に頭がぐるぐるしてくる。それと、やけに嬉しそうなアーチャーが不思議で仕方なかった。

「おま、ッお前、こんなん変だって言わないのかよっ。俺がお前に、っバレンタインのチョコなんて、おかしいって」

「思わんな。好きな相手に貰うものだ。それがいつだろうと何だろうと、嬉しいに決まっている」

きっと馬鹿にされると思っていたそれが、あんまりにもきっぱりと否定で言い切ったモノだから、逆にこちらが呆気に取られてしまう。

「って、つまり、バレンタインあんまり関係無くないか、それ…」

「何、こういった機会でも無ければ中々贈り物の一つも出来ん。不器用な我々にはちょうどいい位だろう」

「……ん、」

何となく上手い言い返しも出来なくて唸って黙り込む。
そして黙り込んでしまえば拒絶の意はないと判断したのだろう。アーチャーの甘い唇が再度重ねられた。




***********
…途中で投げた感が。
本当に近所のデパートのバレンタインコーナーに「友チョコ・世話チョコはお早めに」って書いてあったんですが、あれは全国的に共通認識なのでしょうか…。

バレンタインがよく分からないと未だに思う23歳でした。

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